すじかい466号 別冊
総評
審査委員長 平田 晃久(株式会社平田晃久建築設計事務所/京都大学教授)
2年目となる未来の京都デザインコンペには、前回を上回る高いクオリティの作品が多数寄せられ、審査は大変充実したものとなった。まずはすべての応募者に感謝したい。「未来の京都」というテーマについても議論を重ね、多少荒削りであっても、これからの京都のあり方に示唆を与える提案は積極的に評価した。その一方で、完成度の高い作品に十分な評価を与えられなかった点には、心苦しさも残る。しかし、議論を喚起するフレッシュな提案が多く見られたことから、従来の「奨励賞」に加え、新たに「激励賞」を設けた。受賞者をはじめとする挑戦者たちが、その新鮮な視点を保ちながら提案の密度と質を高め、来年も挑戦してくれることを期待している。大賞については私の個別講評に譲るとして、優秀賞に輝いた芝凛太郎案は、歴史的なエレメントを現代的に組み合わせることで新たな空間を生み出す興味深い実験である。髙橋菜摘案は、ランドスケープ的・作庭的観点から伝統的な場所を更新する可能性を提示しており秀逸である。都市空間の立体的展開や歴史的要素の新たな組み合わせなど、京都の持続的な変化と生命感を感じさせる作品に出会えたことは、大きな収穫であった。
大賞 「たまり、熟成する」
審査委員長 平田 晃久(株式会社平田晃久建築設計事務所/京都大学教授)
二条城近くにある待賢小学校を、メディアセンターとコミュニティセンターへとリノベーションする提案である。「たまる」というキーワードに呼応した器のような形態を複層的に配置することで、学校建築のもつリジッドさを柔らかな広がりへと開くことに成功している。本案の巧みさは、言葉と形態の重層的な扱いにある。器は京都の伝統との関係を想起させるだけでなく、何かをためる形状とも重なる。「たまる」という言葉は、この街に積み重ねられてきた文化的営為の層を思わせると同時に、この新しい場所で何かが熟成していく予感をも喚起する。また、水の器というイメージも重ねられており、屋根を伝ってゆっくりとたまりながら流れ落ちた水が地面に浸透していくプロセスとも関係づけられている。さらにそれは、京都が無数の地下水脈に満たされた「水の都」であることとも響き合う。こうした多層的な響き合いの場を、緻密な構想力と柔らかな感覚の統合によって作品へと昇華させた力量に、すべての審査員が魅了され、満場一致で大賞に選ばれた。
優秀賞 「継承と拡張のアッサンブラージュ」
審査委員 内田 康博(一級建築士事務所内田康博建築研究所/一般社団法人京都府建築士事務所協会 会長)
京都の清水寺周辺の街並みの魅力を探り、その要因を分析して意識化し再構成することで、未来に向けてより魅力的な街並みを作るための手法を提示する意欲的な提案である。歴史に根ざす京都らしさを感じさせる要素として、虫籠窓、漆喰壁、犬矢来、竹垣など伝統的な意匠や素材だけでなく、シャッター、ガラス窓、配管など現代的な要素も含めて京都らしさの「表情」に含めている点も興味深い。それらを再構成する手法としてアッサンブラージュと積み重ねをキーワードに掲げ、類似性と差異性を意識することで、現代にまでつながる歴史に対する敬意と新たな表現を模索している。提案されたファサードは見慣れた素材や意匠が見慣れない構成で再配置されることで、意図的な違和感を感じさせつつ新たな魅力を創出している。再構成する段階での必然性がより一層煮詰められることで、より強い提案となることが期待される。説明や表現も含め非常に魅力的な提案である。
優秀賞 「古都から学び未来に繋げる」
審査委員 加藤 友規(植彌加藤造園株式会社/京都芸術大学大学院教授)
名勝嵐山の重要な構成要素である渡月橋は、文化財保護法上の指定基準における「橋梁」の本質を体現する稀有な存在である。本案はその本質を鋭く射抜き、既存の橋を深く鑑賞すべき対象として再定義した。対面に新たな「流れ橋」を挿入して視点場を創出した構成が鮮やかであり、単なる通行手段を、滞在と風景との対話のための空間へと見事に昇華させている。
景観を阻害せぬよう橋面を極限まで低く抑えつつ、増水時には流失を前提とする流れ橋の原理を応用した点は極めて秀逸である。水の流れの痕跡を記憶として「つみかさねる」態度は、自然の猛威をも受け入れ共生してきた京都の歴史と重なり、深い畏敬の念を感じさせる。
復旧頻度や安全管理といった実務的課題は残るが、豊かな体験を積み重ね、時間を共有する場へと風景を更新する本案は、古都の知恵を未来へ繋ぐ、品格ある解答である。